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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)4077号 判決 1984年4月27日

原告

北山俊一

被告

右代表者法務大臣

秦野章

右指定代理人

浦野正幸

外一名

被告

大阪府

右代表者知事

岸昌

右指定代理人

森元俊之

外四名

被告

河南町

右代表者町長

欺波禮一

右訴訟代理人

比嘉廉丈

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自六四八三万八四〇〇円およびこれに対する被告国については昭和五八年六月二六日から、その余の被告らについては同月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  別紙目録記載(一)の山林(以下「(一)の山林」という。)は元武本安吉の所有であつたところ、北山賢治郎が大正五年ごろ武本から買受けた。

(二)  北山賢治郎は、昭和五二年二月二四日死亡し、原告はその子として遺産分割の協議により(一)の山林の所有権を相続した。

2  原告、訴外上田善作間の(一)の山林をめぐる訴訟(以下「別件訴訟」という。)の経過

(一)(1) 上田善作と原告他二名との間で(一)の山林の所有権の時効取得をめぐつて紛争が生じたため、上田善作は、昭和五二年八月六日原告他二名を被告として大阪地方裁判所堺支部に山林所有権移転登記手続請求訴訟(昭和五二年(ワ)第三八二号事件)を提起した。

右訴訟において、上田善作は、「原告他二名(別件訴訟被告ら)は、上田善作(別件訴訟原告)に対し、(一)の山林について昭和二五年九月三〇日付時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」との判決を求め、請求原因として「1 (一)の山林は登記簿上原告(別件訴訟被告)らの先代北山賢治郎所有名義、他方、別紙目録記載(二)の山林(以下「(二)の山林」という。)は上田善作(別件訴訟原告)所有名義になつている。2 北山賢治郎は昭和五二年二月二四日死亡し、原告らがその権利義務を相続により承継した。3 (一)、(二)の山林はいずれも元武本安吉の所有であつた。同人から北山賢治郎が(一)の山林を買受けて、大正五年四月六日その旨の所有権移転登記を、上田善作の先々代上田相松が本件(二)の物件を買受けて、同年三月三〇日その旨の所有権移転登記、ついで、昭和二五年九月三〇日贈与を原因として上田善作の先代上田正雄に所有権移転登記がされ、同人の死亡により、上田善作が相続取得し、昭和四九年九月一二日その旨の登記手続をして登記名義人となつた。4 ところが、武本と上田善作および原告の先代ないし先々代間の右売買に際し、武本の指示に誤りがあつたためか、亡北山賢治郎と亡上田相松は相互に取り違えた現地を右買受地と信じて占有していた。この状態は少なくとも登記日以降つづいていた。上田相松から贈与を受けた亡上田正雄も、当然右現地を(二)の山林と信じて、贈与を受けた昭和二五年九月二九日以降占有使用し、同人死亡により相続取得した上田善作もそう信じて占有使用してきた。そして、上田相松から上田善作に至るまでいずれも右自己所有地と信じるについて過失はなかつた。5 従つて、(一)の山林は、亡上田相松占有中大正一五年三月二九日の経過により、短期取得時効(一〇年)が完成して、仮に、そうでないとしても、長期取得時効(二〇年)が完成した昭和一一年三月二九日の経過により、いずれにしても同人の所有に帰した。仮に、右主張が認められないとしても、亡上田正雄が、前記占有開始後一〇年をへた昭和三九年九月二八日の経過により、仮にそうでないとしても、二〇年をへた昭和四五年九月二八日の経過により、(一)の山林の所有権を時効取得した。6 上田善作は正雄の権利を相続したこと前記のとおりである。従つて、上田善作は、(一)の山林について、中間省略登記の法理により、原告らに対し、時効取得を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。仮に、登記は実体関係を如実に反映すべきものであるということから、右登記請求権が認められないとしても、上田善作は、前記上田正雄の昭和三九年七月一日以降昭和四九年四月一七日までの占有と、同日以降昭和四九年七月一日までの上田善作自身の占有を合わせた時効の援用をしうべきであるから、昭和四九年六月末日の経過をより、上田善作自身の取得時効援用権を有する。従つて、いずれにしろ、上田善作は原告らに対し、本件登記手続請求権を有する。」と主張し、後記抗弁に対し「納税の点は認め、その余は争う。」と述べ、証拠<省略>。

これに対し、原告他二名は、「上田善作の請求を棄却する。」との判決を求め、前記請求原因に対し「請求原因1ないし3の事実は認める。同4、5については争う。現地を相互に取り違えていた等のことはない。即ち、(一)の山林は、亡北山賢治郎の父北山由太郎が親権者として、元所有者武本から買受けてその旨の登記をし、更に、亡上田相松が(二)の山林を右武本から買受けるに当たつても北山由太郎はそのあつせんをしており、右両土地を熟知していたのであつて、取り違えなど起こりうる余地がない。また、原告側で(一)の山林を占有使用していた事実もない。上田相松から北山由太郎に対し、(二)の山林売買数年後に田の肥料用の下草刈りおよび薪用の雑木の伐採を許してほしい、との申込みがあつた。北山由太郎は、北山賢治郎と相談のうえ、上田相松と縁威関係があることもあつて応じた。そして、その際、上田相松は、「面積は少ないが、代償として、(二)の山林を原告側の利用に供する。」と申し出た、これが、両土地の利用関係と登記簿上の所有名義が異なるようになつた理由である。なお、上田側の利用は、下草刈りを農繁期に、薪取りを年に数回するだけで、占有はしていない。」と述べ、抗弁として「仮に、上田側の占有があつたとしても、いわゆる自主占有でないことは右請求原因に対する認否にみたところから明らかであり、この点からしても到底上田側の占有は自主占有でありえない。」と主張し証拠<省略>。

(2) 同裁判所は、昭和五三年七月一四日、右事件について亡上田正雄が(一)の山林を父上田相松から贈与を受けてその旨の登記手続を了した昭和二五年九月三〇日以降自己所有の意思をもつて公然平穏に占有をつづけてきた事実を認定し、上田善作の請求を認容する旨の判決を言い渡した。

(二)(1) 原告他三名は、昭和五三年七月二三日、同判決を不服として大阪高等裁判所に控訴(昭和五三年(ネ)第一二九二号事件)を申立てた。

右控訴審において、原告他三名は、「原判決を取消す。上田善作(別件訴訟被控訴人)の請求を棄却する。」との判決を求め、前記第一審の主張に「(一) 亡賢治郎の共同相続人たる原告ら(別件訴訟控訴人ら)は、遺産分割協議により、(一)の山林は原告が単独でこれを承継し、昭和五三年二月一〇日その旨の登記が了した。したがつて、原告以外には本件登記義務は存在しない。(二)上田善作(別件訴訟被控訴人)主張の(一)の山林占有状況は、山林全体の事実的支配が不完全で取得時効の要件としての占有に当らない。(二) 上田善作が(一)の山林につき、仮りに占有をしていたとしても、それは原告他三名の先々代北山由太郎から上田善作の先々代上田相松が借受けたことによるものであつて、他主占有にすぎず、またこれを自主占有に変更するにつき原告他三名に対し、民法一八五条所定の「所有ノ意思アルコトヲ表示」していない。」を付加する旨述べ、証拠<省略>。

上田善作は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求め、前記第一審での主張を維持し、証拠<省略>。

(2) 同裁判所は、昭和五四年一一月二九日、上田善作が民法一八七条によりその選択主張する前主亡上田正雄が占有を開始した昭和二五年九月二九日から二〇年を経過した昭和四五年九月二九日に時効が完成しその起算日である昭和二五年九月三〇日に(一)の山林を時効取得したことを認め、他方で、原告他三名の抗弁のうち、原告が遺産分割協議により(一)の山林を単独で承継し昭和五二年二月二四日相続を原因とする所有権移転登記手続を了し、従つて、原告を除いた右三名の者は登記義務を有しないことを認めたが、その余の主張は排斥し、結局、前記第一審判決を「(一) 原告(別件訴訟控訴人北山俊一)は、上田善作(別件訴訟被控訴人)に対し、(一)の山林につき、昭和二五年九月三〇日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。(二)上田善作を除いた右三名に対する請求をいずれも棄却する。」と変更し、原告を除いた右三名の控訴は認めたものの、原告の控訴を棄却する趣旨の判決を言い渡した。

(三)(1) 原告は、さらに昭和五四年一二月四日、同判決を不服として最高裁判所に上告(昭和五五年(オ)第一二四号事件)を申立て、そのなかで同判決には理由齟齬ないし理由不備の違法、理由に経験則違反があることや法令適用の誤まりがあること等を主張したが、同裁判所は、昭和五五年六月二七日、原告の右上告を棄却する旨の判決を言い渡し、前記第二審判決は確定した。

3  被告国の責任

前記第一審、第二審、上告審の審理を担当した各裁判官は、以下に述べるような誤まりを犯して前記のごとき判決を下し、原告を敗訴させたのであるから、国は、原告に対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償責任に基づき、右敗訴によつて被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(一) 前記第一審の誤まりについて

(1) 虚偽の書証の採用

(ア) 別件訴訟表示の甲第四号証は被告河南町長高橋享作成にかかる、(一)の山林は上田善作の管理所有に属し、(二)の山林は原告の管理所有に属する旨の、登記簿の記載内容と異なる証明書であり、同甲第五号証の一、二は(二)の山林が原告の所有管理に属する旨の、隣接土地所有者の証明書と図面であり、同甲第六号証の一、二は(一)の山林が上田善作の所有管理に属する旨の、隣接土地所有者の証明書と図面であり、同甲第七号証は被告河南町平石地区区長福井藤吉作成にかかる、上田善作が(一)の山林の管理費を収めている旨の証明書であり、同甲第八号証は(一)の山林を(二)の山林と間違つて上田善作の先々代ないし上田善作が占有管理していた旨の報告書であり、同甲第九号証は(二)の山林を(一)の山林と間違つて原告の先代ないし原告が占有管理していた旨の報告書である。

(イ) 右書証の記載内容はいずれも虚偽である。

(ウ) にもかかわらず、前記第一審担当裁判官は右各書証を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(2) 偽証の採用

(ア) 第一審において訴外久門太郎兵衛は右(1)(ア)の別件訴訟表示甲第八、第九号証の記載内容と同趣旨の証言をし、上田善作は(一)の山林を先々代から占有管理してきた趣旨の供述をした。

(イ) 右証言および右供述の内容はいずれも虚偽である。

(ウ) にもかかわらず、前記第一審担当裁判官は右証言や右供述を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(3) 別件訴訟表示の乙第四号証の不採用

(ア) 同乙第四号証は上田善作の先々代の上田相松が原告の先々代北山由太郎にあてた(一)の山林の借受証である。

(イ) 右書証は真正に成立したもので真実を記載したものであり、これによると上田善作やその先代、先々代が(一)の山林を占有管理していたとしても所有の意思を持つていなかつたことは明らかである。

(ウ) にもかかわらず、前記第一審担当裁判官は右書証を採用せず、前記のごとく上田善作の(一)の山林についての自主占有を認め、事実認定を誤まつた結果、原告敗訴の判決を言い渡した。

(二) 前記二審の誤まりについて

(1) 前記第二審担当裁判官は、右(一)の前記第一審と同様の誤まりを犯した結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(2) 証人白須賀保一の証言および別件訴訟表示の乙第八号証の不採用

(ア) 第二審において訴外白須賀保一は(一)の山林の管理費は上田側でなく原告側が収めてきた旨の証言をし、同乙第八号証は白須賀がそのことをメモ書きしたものである。

(イ) 右証言は真実であり、右書証も真正かつ真実に合致するものであり、これによると上田側の(一)の山林の占有は認定できないはずである。

(ウ) にもかかわらず、前記第二審担当裁判官は右証言も右書証も採用せず前記のごとく上田側に(一)の山林についての占有を認め、事実認定を誤まつた結果、原告敗訴の判決を言い渡した。

(3) 上田善作の供述の採用

上田善作は第二審においても第一審と同様に虚偽の供述をしたにもかかわらず、前記第二審担当裁判官は右供述を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(4) 法令の適用の誤まり

前記第二審担当裁判官は、民法一八五条で規定する自主占有への変更の場合も同法一八六条で規定する所有の意思の推定の適用がある旨判示して法令の適用を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(三) 前記上告審の誤まりについて

前記上告審担当裁判官は右(二)で述べた第二審の誤まりに気づき原告の上告を認めるべきであるにもかかわらずこれを看過した結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

4  被告大阪府の責任

(一) 訴外佐野修、同荒木満夫および同間真明の三名は、被告大阪府の職員で昭和四八年ごろから河内南耕地事務所で農道敷地買収事務に従事していた。

(二) 虚偽公文書の作成

(1) 右三名は、その職務を行うについて前記甲第五第六号証の各一、二を作成した。

(2) 右書証の記載内容はいずれも虚偽である。

(3) にもかかわらず前記第一、第二審の各担当裁判官とも右書証を採用して事実認定を誤まつた結果、いずれも前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(三) 偽証

(1) 佐野は、昭和五四年二月二〇日、その職務を行うについて前記第二審で右書証の記載内容と同趣旨の証言をし、荒木は、同年三月二九日、その職務を行うについて前記第二審で右書証の記載内容と同趣旨の証言をした。

(2) 右証言内容はいずれも虚偽である。

(3) にもかかわらず、前記第二審担当裁判官は右証言を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

よつて、被告大阪府は、原告に対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償責任に基づき、右敗訴によつて被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

5  被告河南町の責任

(一) 町長高橋享の違法行為

(1) 被告河南町の町長である高橋は、昭和五二年二月一八日、その職務を行うについて前記甲等四号証を作成した。

(2) 右書証の記載内容は虚偽である。

(3) にもかかわらず、前記第一、第二審の各担当裁判官とも右書証を採用して事実認定を誤まつた結果、いずれも前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(二) 平石区区長福井藤吉の違法行為

(1) 虚偽公文書の作成

(ア) 被告河南町平石地区区長である福井は、昭和五二年一月二五日、その職務を行うについて前記甲第七号証を作成した。

(イ) 右書証の記載内容は虚偽である。

(ウ) にもかかわらず、前記第一、第二審の各担当裁判官とも右書証を採用して事実認定を誤まつた結果、いずれも前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(2) 偽証

(ア) 被告河南町平石地区区長である福井は、昭和五四年七月三日、その職務を行うについて前記第二審で右書証の記載内容と同趣旨の証言をした。

(イ) 右証言内容は虚偽である。

(ウ) にもかかわらず、前記第二審担当裁判官は右証言を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(三) 町会議員久門太郎兵衛の違法行為

(1) 虚偽文書の作成

(ア) 被告河南町会議員である久門は、その職務を行うについて、昭和五一年一一月一七日前記甲第八号証に立会人として署名してその作成に関与し、同月一八日前記甲第九号証に立会人としてその作成に関与した。

(イ) 右書証の記載内容はいずれも虚偽である。

(ウ) にもかかわらず、前記第一、第二審の各担当裁判官とも右書証を採用して事実認定を誤まつた結果、いずれも前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

(2) 偽証

(ア) 被告河南町会議員である久門は、その職務を行うについて、昭和五三年三月三日前記第一審で、昭和五四年九月一一日前記第二審でいずれも右書証と同趣旨の証言をした。

(イ) 右証言内容はいずれも虚偽である。

(ウ) にもかかわらず、前記第一審担当裁判官は右一審での証言を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡し、前記第二審担当裁判官は右一審と二審の双方の証言を採用して事実認定を誤まつた結果、前記のような原告敗訴の判決を言い渡した。

よつて、被告河南町は、原告に対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償責任に基づき、右敗訴によつて被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

6  損害

(一)の土地の価格は六四八三万八四〇〇円を下回らず、原告は少なくとも同額の損害を被つた。

よつて、原告は、被告らに対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自損害金六四八三万八四〇〇円およびこれに対する不法行為後で訴状送達の翌日である被告国については昭和五八年六月二六日から、その余の被告らについては同月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告国

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3のうち、冒頭部分の主張は争う。

(1)(ア)① 同3(一)(1)(ア)の事実は知らない。

② 同3(一)(1)(イ)の事実は否認する。

③ 同3(一)(1)(ウ)の事実のうち、前記第一審担当裁判官が前記甲第八、第九号証を採用し、原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(イ)① 同3(一)(2)(ア)の事実は知らない。

② 同3(一)(2)(イ)の事実は否認する。

③ 同3(一)(ウ)の事実のうち、前記第一審担当裁判官が久門太郎兵衛の証言および右上田の供述を採用し、原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(ウ)① 同3(一)(ア)の事実は知らない。

② 同3(一)(イ)の事実は否認する。

③ 同3(一)(ウ)の事実のうち、前記第一審担当裁判官が前記乙第四号証を採用せず右上田の自主占有を認め、原告敗訴を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(2)(ア) 同3(二)(1)の事実のうち、前記第二審担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(イ)① 同3(二)(2)(ア)の事実は知らない。

② 同3(二)(2)(イ)の事実は否認する。

③ 同3(二)(2)(ウ)の事実のうち、前記第二審担当裁判官が白須賀の証言および前記乙第八号証を採用せず右上田側に(一)の山林についての占有を認め、原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(ウ) 同3(二)(3)の事実のうち、右上田が第二審において第一審と同趣旨の供述したこと、前記第二審担当裁判官が右供述を採用し、原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(エ) 同3(二)(4)の事実のうち、前記第二審担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(3) 同3(三)の事実のうち、前記上告審担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、その余は否認する。

(四) 同6の事実は知らない。

2  被告大阪府

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は認める。

(三)(1) 同4(一)の事実は認める。

(2)(ア) 同4(二)(1)の事実は知らない。

(イ) 同4(二)(2)の事実は否認する。

(ウ) 同4(二)(3)の事実のうち、前記第一、第二審の各担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、前記甲第五、第六号証の各一、二が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(3)(ア) 同4(三)(1)の事実のうち、「その職務を行うについて」の部分を否認し、その余は知らない。

(イ) 同4(三)(2)の事実は否認する。

(ウ) 同4(三)(3)の事実のうち、前記第二審担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、佐野および荒木の各証言が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(四) 同6の事実は知らない。

3  被告河南町

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は認める。

(三)(1)(ア) 同5(一)(1)の事実のうち、高橋が被告河南町長であつたことは認め、その余は知らない。

(イ) 同5(一)(2)の事実は否認する。

(ウ) 同5(一)(3)の事実のうち、前記第一、第二審の各担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、前記甲第四号証が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(2)(ア)① 同5(二)(1)(ア)の事実のうち、福井が被告河南町平石地区区長であつたことは認め、その余は知らない。

② 同5(二)(1)(イ)の事実は否認する。

③ 同5(二)(1)(ウ)の事実のうち、前記第一、第二審の各担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、前記甲第七号証が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(イ) ①同5(二)(2)(ア)の事実のうち、福井が被告河南町平石地区区長であつたことは認め、「その職務を行うについて」の部分は否認する。その余は知らない。

② 同5(二)(2)(イ)の事実は否認する。

(3) 同5(二)(2)(ウ)の事実のうち、前記第二審担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、福井の証言が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(3)(ア)① 同5(三)(1)(ア)の事実のうち、久門が被告河南町会議員であつたことは認め、「その職務を行うについて」の部分は否認する。その余は知らない。

② 同5(三)(1)(イ)の事実は否認する。

③ 同5(三)(1)(ウ)の事実のうち、前記第一、第二審の各担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、前記甲第八、第九号証が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(イ)① 同5(三)(2)(ア)の事実のうち、久門が被告河南町会議員であつたことは認め、「その職務を行うについて」の部分は否認する。その余は知らない。

② 同5(2)(イ)の事実は否認する。

③ 同5(三)(2)(ウ)の事実のうち、前記第一、第二審の各担当裁判官が原告敗訴の判決を言い渡したことは認め、久門の証言が採用されたことは知らない。その余は否認する。

(四) 同6の事実は知らない。

三  被告らの主張

本件のように民事訴訟手続において判決が確定した場合、再審の訴によることなくその他の方法によつて当該判決の事実認定が過誤であり、かつ違法であることを主張して実質上当該判決の取消と同一の結果を求めることは当該判決の確定によりその事実認定の過誤、違法を主張してその取消を求めることがもはや不可能となつている以上、裁判の確定力の原則、審級制度および再審制度の趣旨に合致せず、法秩序全体の観点からみても、国家が一方で確定判決の実質的取消を容認するという悖理を是認することにつながるものであつて許されないものというべきである。

四  右主張に対する原告の反論

裁判の既判力は当該訴訟物についてその当事者間においてのみ生じるものであり、訴訟物および当事者を異にする本件にあつては右のような拘束力をうける理由はない。誤まつた裁判により被害を受けた者は国家賠償請求することにより救済の機会を与えられることは国家賠償法の立法精神に合致する。裁判所の行為といえども国家賠償の対象から免れるものでない。民事再審については厳格な要件が定められており、再審制度によつて救済を受けられない場合が多く発生する。

以上より本件において確定判決の再審による取消を要求する根拠は法律的にも政策的にも全く存しないというべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二被告国の責任について

被告国は、確定判決については当該判決の事実認定が過誤、違法であることを主張して実質上当該判決の取消と同一の結果を求めることは許されない旨主張する。しかし、国家賠償法一条は、国の公権力の行使に当る公務員がその職務を行うについて、故意または過失によつて違法に国民の権利を侵害したときは、国に対し損害賠償を請求することができる旨規定しているが、その場合、公務員が裁判官であり、当該行為が裁判権の行使およびそのためにする権限の行使である場合を除外していないし、また、当該裁判官のした権限の行使が裁判そのものであり、その裁判が当該手続において確定してしまい争いえなくなっていても、右裁判を違法として同法一条の訴を提起することについてその妨げとなるような実体法上の規定は存しないのである。のみならず、さきに確定した裁判と後の訴によつて求められる裁判とは、両者全くその目的を異にし、その対象を異にしているというべきである。かえつて、その審判の対象が裁判であつても、同法一条の訴を受理した裁判所は、自由かつ独自の立場から前の裁判の違法性の有無を判断することが、旧憲法下の国家無答責の原則を廃し、公権力の違法な行使から国民の権利を守り、その侵害に対する救済を保障しようとする国家賠償法の立法目的に適うと考えられるのであり、国家が、他の公益上の目的のため、他の裁判所をして、当該裁判官の行つた裁判(事実認定および法令の解釈適用)の適法性の有無を判断せしめることが、直ちに司法制度の本質または法律の解釈適用の本質に反することにつながるとはいえないというべきである。

もつとも、およそ民事判決は、一名または複数の裁判官によつて構成される裁判所が、当事者間に紛争のある権利関係について、当事者双方に主張、立証を尽くさせたうえ、双方の提出した訴訟資料および証拠資料を論理法則および経験法則に従つて検討し、事実の認定および法令の解釈適用を行ない、もつて、当該権利関係の存否を判断することにより、当事者間の紛争を公権的に解決することを目的とする国家行為である。そこで、現行の裁判所法および民事訴訟法は、民事判決が当事者間の権利関係の存否に重大な影響を及ぼすものであることを考慮し、裁判所の判断に誤りがないことを期するため、裁判所の適正な構成につして定めるとともに、上訴制度および再審制度を設けているのであるが、その反面民事判決が当事者間の紛争を終局的、確定的に解決することを目的とするものであることに鑑み、裁判所の判断に対する当事者の不服は民事訴訟法の規定する上訴および再審の手続によつてのみこれを解決すべきものとしているのである。従つて、当事者間の特定の紛争についての民事判決が、民事訴訟法の規定する手続を経て確定した場合には、その判決が構成裁判官の悪意による事実の誤認または法令の曲解に基づいてなされたなどの特段の事情のない限り、右裁判官のした行為には何らの違法もなかつたものと解するのが相当であり、その限りで、裁判官の行う裁判について、その本質に由来する制約を認めることができるのである。

これを本件について考察するに、前記の事実によると、上田善作、原告間の別件訴訟が民事訴訟法の規定する上訴手段を経て確定するに至つているところ、本件全証拠によつても、原告が前記請求原因3で主張する諸点についてそれぞれ前記のような担当裁判官の悪意による事実の誤認または法令の曲解に基づいてなされたなどの特段の事情があることを認めることはできない。

なお、前記請求原因3(一)(1)の虚偽の書証の採用のうち、前記甲第八、第九号証以外の書証については前記第一、第二審を通じ採用されたと認めるに足りる証拠はなく、かえつて、いずれも成立に争いのない甲第一、第二号証によると、前記第一、第二審を通じ事実認定の資料として採用されたのは前記甲第八、第九号証のみでそれ以外の前記甲第四号証、第五、第六号証の各一、二、第七号証は採用されていないことが認められ、この点においても理由がない。

以上のとおり、被告国は原告に対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償責任を負わないものというべきである。

三被告大阪府の責任について

被告大阪府は、確定判決については当該判決の事実認定が過誤、違法であることを主張して実質上当該判決の取消と同一の結果を求めることは許されない旨主張する。

思うに、判決が確定した場合であつても、その判決の成立過程におして訴訟当事者以外の第三者が虚偽の証拠を作成したり、偽証をする等の不正行為を行ない、その結果ありうべからざる内容の確定判決がされた場合に、これによつて損害を被つた訴訟当事者が右の第三者に対して不法行為による損害賠償を請求することができない理由はない。

しかしながら、右確定判決の事実審において攻撃防禦を尽くした訴訟当事者が右の第三者に対し、右確定判決において右訴訟当事者が主張した権利が認められなかつたことによる右権利の価格相当額を損害とする、不法行為にもとづく損害賠償を請求できるとするためには、第三者の虚偽の証拠を作出するなどの不法行為について、その者に対する刑事上の偽証罪、文書偽造罪や虚偽文書作成罪等の有罪判決が確定するなどその公序良俗違反の行為による不法行為の成立が明白に認められるなど特段の事情が存することを要するものと解するのが相当であつて、右確定判決の事実審において攻撃防禦を尽くしながら、ついに偽証や偽造または内容虚偽の書証を打ち崩すことができず不利な確定判決を受けた者が第三者の供述等が真実に反するなどとしてその第三者に損害賠償の請求をすることは当然には許されないと解するのが相当である。けだし、このような請求を制約なしに認めることとすると、不利な確定判決を受けた訴訟当事者が自己に不利な証言者や書証作成者を無制約に訴えることを容認する結果を招き、本来訴訟当事者間で解決すべきものであり、しかも法的にはその解決がえられ、もはやその相手方当事者との間では争うことのできない紛争が徒らに際限なく第三者にまで拡大するおそれがあるのみならず、ひいては証言者らの地位を不安定にし、自由で真相にせまった証言等を得られなくする危険性があり、また、このような訴は、特段の事由のないかぎり、当事者こそ異なるが実質的には既決の紛争のむしかえしとしての一面をもつものであつて、容認することができないからである。

これを本件についてみるに、別件訴訟が民事訴訟法の規定する上訴手段を経て確定するに至つていることは当事者間に争いがなく、本件において原告が賠償を求めている損害は、別件訴訟において原告が主張していた権利が認められなかつたことに基づくものであることが明らかである。そして、いずれも<証拠>を総合すると、原告は別件訴訟の全過程を通じて十分に主張立証を尽くしていながら敗訴したものであることが認められる。そして、本件全証拠によつても、原告が前記請求原因4で主張する諸点について前記のような佐野、荒木等に対する刑事上の偽証罪や虚偽公文書作成罪の有罪判決が確定するなど特段の事情のあることを認めることはできない。

なお、請求原因4(二)の事実については別件訴訟表示の甲第五、第六号証の各一、二いずれもが前記第一、第二審を通じ採用されたと認めるに足りる証拠はなく、かえつて、前記甲第一、第二号証によると、右甲第五、第六号証の各一、二は、第一、第二審とも事実認定の資料として採用されていないことが認められ、この点においても理由がない。また、請求原因4(三)の事実についても佐野や荒木の証言が被告大阪府の職務を行うについてなされたと認めるに足りる証拠はなく、この点においても理由がない。

以上のとおり、被告大阪府は原告に対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償責任を負わないものというべきである。

四被告河南町の責任について

被告河南町の責任についても右三で述べたところが妥当するところ、本件全証拠によつても、原告が前記請求原因5で主張する諸点について高橋、福井、久門に対する刑事上偽証罪や虚偽公文書作成罪等の有罪判決が確定するなどの特段の事情のあることを認めることはできない。

なお、請求原因5(一)の事実については別件訴訟表示の甲第四号証が前記第一、第二審を通じ採用されたと認めるに足りる証拠はなく、かえつて、前記甲第一、第二号証によると、右甲第四号証は第一、第二審ともに事実認定の資料として採用されていないことが認められ、この点においても理由がない。また、請求原因5(二)(1)の事実についても同じく別件訴訟表示の甲第七号証が第一、第二審を通じ採用されたと認めるに足りる証拠がなく、かえつて、前記甲第一、第二号証によると、右甲第七号証は第一、第二審とも事実認定の資料として採用されてないことが認められ、この点においても理由がない。さらには、請求原因5(二)(2)の福井および同5(三)(2)の久門の偽証についても右各証言が被告河南町の職務を行うについてなされたと認めるに足りる証拠はなく、この点においても理由がない。

以上のとおり、被告河南町は原告に対し、国家賠償法一条の不法行為による損害賠償責任を負わないものというべきである。<以下、省略>

(川口冨男 園田小次郎 岡田信)

目録<省略>

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